デール・カーネギーの「人を動かす」の第三章は「人を説得する十二原則」です。Twelve Ways to Win People to Your Way of Thinkingが原文の見出しで、思い通りに人を動かす12の方法と言ったほうが良いと思います。説得するというとよく話して、場合によっては脅しも入れたりして納得させる感じがしますが、ここの内容は説得するためのものではなくて、結果として自分と同じ考えに導くためのものです。
- 議論は避けたほうが良い(The only way to get the best of an argument is to avoid it.)
- 相手に敬意を払い、誤りを指摘しない(Show respect for the other person’s opinions. Never say “You’re wrong.”)
- 自分の誤りはすぐにはっきりと認める(If you’re wrong, admit it quickly and emphatically.)
- 友好的に伝える(Begin in a friendly way.)
- イエスと言えることから話す(Start with questions to which the other person will answer yes.)
- 相手に思う存分話させる(Let the other person do a great deal of the talking.)
- 相手が自分のアイデアだと思わせるようにする(Let the other person feel the idea is his or hers.)
- 相手の立場になって考えてみる(Try honestly to see things from the other person’s point of view.)
- 相手に同情する(Be sympathetic with the other person’s ideas and desires.)
- より高い動機をアピールする(Appeal to the nobler motives.)
- 演出する(Dramatize your ideas.)
- 競争心を刺激する(Throw down a challenge.)
議論は避けたほうが良い
日本人である私たちは議論を避けることが話をまとめるのに手っ取り早いことは分かっていて、事前に根回しをして合意を取った後に正式会議を開いたりということは良くします。でも討論が文化のアメリカ人には目から鱗の方法なのかもしれません。
自分の部下と議論して勝つことは容易いことかもしれませんが、議論して相手をあなたの思うとおりにさせたとして、相手が腹の底から納得しているかというとそのようなことはなくて、むしろ自分の意見を一ミリも変えていないはずです。
カーネギーは議論に勝つことと、相手の好意を勝ち得ることはめったに両立しないと言っています。もちろんこの本の主題から分かるようにカーネギーは相手の好意を勝ち取ることが結果として人を動かすことにつながると考えています。
意見の不一致から口論が生じないようにするための9つの対処方法
意見の不一致から口論が生じないようにする対処方法として、別の本から引用して以下の9つ挙げられています。
- 意見の不一致を歓迎せよ
- 最初に頭をもたげる自己防衛本能におしながされてはならない
- 腹を立ててはいけない
- まず相手の言葉に耳を傾けよ
- 意見が一致する点を探せ
- 率直であれ(素直になる)
- 相手の意見をよく考えてみる約束をし、その約束を実行せよ
- 相手が反対するのは関心があるからで、大いに感謝すべきだ
- 早まった行動を避け、双方がじっくり考えなおす時間を置け
人と対立しそうになったら、この9つをチェックしてどう対処するか考えるのが良いと思います。
相手に敬意を払い、誤りを指摘しない
話をしていて相手が間違っていることに気が付くことがあります。そのようなとき間違いを指摘して正そうとするのではないでしょうか。相手の間違いを正しているときは優越感が得られて、しかも間違いを正してあげたんだから感謝して欲しいとまで思うかもしれません。
相手の間違いを指摘することで劣等感を与えて話の主導権を握れば、思い通りに事が運ぶと思われるかもしれませんが、カーネギーはそれを否定しています。それとは正反対の相手の誤りは見逃すことを勧めています。
確かに人は理論や理屈で動いているのではなく、感情で動いています。このことを忘れてしまうと判断を誤ります。特に初対面で間違いを指摘するのは最悪の結果になりそうです。
でも仕事をするうえで相手の間違いを正すことは必要なことだったりします。しかし大勢の前で間違いを正すのではなく、個人的になるべくやわらかく指摘しておきたいです。とはいえ誤りを指摘することはやはり良好な人間関係の妨げになる可能性がありますので、必要最低限にとどめたいです。
自分の誤りはすぐにはっきりと認める
もしもあなたが相手の間違いを指摘して、相手から感謝されたらどう思うでしょうか?自己の重要感が満たされていると思います。
自己の重要感はなかなか満たされることのない欲求です。「あなたのおかげで間違いに気が付くことが出来ました。」と相手に感謝したら相手は自己の重要感が満たされて、自己の重要感を満たしてくれるあなたを常に近くに置いておきたくなります。
また潔く誤りを認めることは勇気は要りますが、後でストレスになりません。また潔さが周囲からの評価も高めてくれます。
友好的に伝える
部下がミスをした場合、部下は上司に叱られても仕方がないと思っていると思いますが、そこに輪をかけて非難されればかなり落ち込むことでしょう。ただ落ち込むならまだしも、たとえ上司が正しくてもなんでそんなに叱られなくてはいけないんだと怒りがこみ上げてくることもあります。
部下を叱る行為は自分の叱りたい欲求を満たしているだけで、叱られる立場の人のことを考えた行動ではありません。大きな心で寛容に接することが大事です。
イソップ童話の北風と太陽にあるように、旅人のコートを脱がせるためには、冷たい風を勢いよく吹かせて吹き飛ばそうとするのではなくて、暖かい陽の光で旅人に脱いでもらうことです。これと全く同じことです。
イエスと言えることから話す
「シャンデリア」を10回言ってみて、「リンゴを食べて死にかけたお姫様は?」と聞かれると、白雪姫ではなくて「シンデレラ」と答えてしまうのと同じような現象がイエスセット話法と言われるテクニックです。これは人間の特性のひとつの一貫性の法則を利用しています。
始めにノーと言わせてしまうと、交感神経が優勢になり脳がフル活動して防御を開始するのでノーと言わせること自体も良くありません。
相手がイエスと言いやすい話題から入って、それを数回繰り返してから本題に入るのは心理学的にも有効な方法です。
相手に思う存分話させる
人の話を聞いてくれる人は少ないです。それが自慢話だったらなおさらです。でももしもあなたがその少ない人になって、しかももっと聞かせてくれとばかりに質問をかぶせたり、褒めたたえたりしたら、相手はあなたに大きな好意を抱くことでしょう。
逆に相手は人の話は聞きたくありません。自分はしゃべりたい欲求を我慢して相手に思う存分話させて、それを「すごいね」と褒めてあげるのです。
相手が自分のアイデアだと思わせるようにする
他人から押し付けられたアイデアはあまり信用できませんが、自分が思いついたアイデアは何も抵抗がなく実施することが出来ますし、やり遂げようというモチベーションも上がります。相手に自分のアイデアだと思わせたらしめたものです。
人は誰しも誰かの命令で動きたくはなくて、自分で考えて行動したいと思うものです。更に保有の法則といって一度手にしたものは手放したくなくなるので、多少の困難があってもそのアイデアを手放すことなく実行し続けてくれます。
相手が部下の時には有効
相手が部下であればその成果はあなたのものにもなりますので、この手法は有効です。しかし相手が上司であったり同僚であったりした場合は成果を他の人にあげてあなたが全く評価されないことになることもあります。何かしらの証拠を残しておいて後で実はあなたが糸を引いていたことが分かるようにする工夫などが必要になります。
相手の立場になって考えてみる
相手が間違っていると責め立てることは子供にでもできることです。相手がなぜそのようなことを言っているのか相手の立場になって考えることができるのが大人です。
人は無意識に自分は正しいと考えますので、相手が自分と思っていることと違うことを言っていると、相手が間違っている、けしからんと怒り出すことさえもあります。でもそれって相手も同じ気持ちだったりします。こうなると関係はこじれるばかりで平行線をたどるだけです。
こうならないためにも冷静に相手の立場に立って考えながら、相手の意見を聞く習慣を身につける必要があります。
相手に同情する
人は同情を求め同情に飢えているものです。願望が現実のものにならなくても同情がもらえれば救われることもあります。同情を示すことは必ずあなたにプラスに働きます。
相手の仕事がうまくいかない場合や失敗した場合、色々と言い訳をしてくることがあると思いますが、まずはそれを全て受け止めてあげることです。そして「よくわかるよ」とか「運が悪かったね」とか「条件が悪かっただけだよ」とか同情を示してあげることです。
これでその相手は救われることになりますし、あなたに対して好意を抱くことになります。
より高い動機をアピールする
人は自分は優れた人間でありたいと思うものです。「優秀ですね」とか「頭が良いですね」とか「やさしいですね」とか自分を高く評価されたら嬉しく感じます。ボランティア活動に参加したり、寄付をしたりする行動の心理は、自分が立派でありたいと思う心からきています。
しかし自分は理想の自分でないことは分かっていて、現実の自分と理想の自分のギャップに気づいているものです。そのギャップを埋めてあげるものを提示して上げれば人は動いてくれます。でもそのような機会はなかなかありませんが、うまくいけば相手にとってあなたはかけがえのない人となります。
しかし相手を高く評価してあげて褒める機会はいくらでもあると思います。自分も相手より上でありたいと考えるので、相手を褒めることは自分を下げることになり抵抗があると思います。しかしそれを乗り越えて相手を褒めることが必要です。
演出する
単に事実をそのまま述べているだけでは不十分で、ドラマチックな演出がないと人は動いてくれません。正直事実をそのまま述べることを鍛えられている技術系が苦手とする分野だと思います。しかし注目を集めて人を動かすのであればドラマチックな演出は必要です。テレビのコマーシャルのようなプレゼンができれば良いのにと思います。
競争心を刺激する
誰だって人には負けたくないものです。この競争心というのは誰でも本能的に持っているものです。競争心を刺激されるとよりパフォーマンスが上がるだけでなく、チームで競争させると団結力も強まります。明確に競わせる必要はなくて、同じ作業を隣り合わせた人に割り当てるだけで競争は始まります。
カーネギーが付けたしていることに、人を動かすのは仕事そのものの魅力だと言っています。仕事自体が興味深いものであることを認識させて、この仕事をすることで自己表現ができて、周りからも認められ評価されるものだということを認識させることです。そうすることで人は自ら動いてくれるようになります。
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